クオリア入門―心が脳を感じるとき (ちくま学芸文庫)クオリア入門―心が脳を感じるとき (ちくま学芸文庫)
著者:茂木 健一郎
販売元:筑摩書房
発売日:2006-03-09
おすすめ度:3.5
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物質である脳に心はいかにして宿るか。心脳問題は未だ解決されない問題の一つだ。クオリア(意識に感じられる質感)を切り口に、その難しい問題に深く切り込んだ論考である。

脳細胞の固まりでしかない物質は物理法則で語られるはずであるにも関わらず、現在までに心の在り方の法則性や秩序は見つかっていない。10を知れば100が分からなくなるというこの問題の、現在までに分かっている事実や今後の研究への展望が語られる。

一見脳とは関係なさそうな研究成果や概念が、心脳問題を考える上で非常に重要であることが見い出されるのが興味深い。

物理的時間と心が知覚する心理的時間の間にマッハの原理を持ち込むことによって脳科学と相対論の間に見事な補助線が引かれる。また、主観性の基礎でありクオリアの知覚のためのポインタに相当する機能が、ブレンターノの言う「志向性」と同じ概念だったことの発見によって、哲学との間の補助線も明確となった。

脳内の心の在り方の考察から、物理学や哲学、その他のあらゆる学問や人類の叡智の根源は、実は渾然一体としたものであることを予感させられる。とても不思議な読後感だ。

いずれ心脳問題が解き明かされ、人間の心がまるで状態関数のように語られる日は来るのだろうか。そんな日は来ないかもしれないし、来るとしてもまだまだ先の話になりそうだ。心脳問題は脳科学者だけの問題ではない。自らの志向性や主観性を問い続ける限り、誰もが向き合うべき問題なのだ。