禅的生活 (ちくま新書)禅的生活 (ちくま新書)
著者:玄侑 宗久
販売元:筑摩書房
発売日:2003-12-09
おすすめ度:4.0
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禅の考え方は、悩みや問題の解決法や決定や選択の根拠になるものではない。どんな状態であれ、「今、ここ」を受け入れ、肯定するための考え方だ。

迷いの原因や日常をどう生きるべきか、「風流」の考え方についてなど、良い意味での「ゆるい」文体で禅の考え方を紹介する。

面白いのは、脳の仕組みと絡めながら「悟り」の状態を考察している点だ。随所で右脳と左脳について語られているが、ここでは脳の物理的な部位としての右脳左脳ではなく、感情的思考、論理的思考などを解説する上での大まかな機能分類としての右脳左脳と理解すべきだろう。

悟りの状態は意識が混沌とした状態を意識することであって、「うすらぼんやり」した状態がその入り口だと言う。見るともなく見る、どこかに意識を集中することなく、大局を見る状態という意味だ。

この状態は、脳科学の論考クオリア入門で言う、志向性や視覚的アウェアネスで説明ができるかもしれない。つまり、悟りの状態は、志向性(視覚情報の中の特徴の所在情報)の無い、視覚的アウェアネス(視野の中に視覚情報が並列的に存在している状態)だけの状態ではないだろうか。「私が○○を見ている」という主観性の無い状態と言える。本書で解説されている「絶対的一者」の考え方とも矛盾しない。

煩悩が、知的成長を阻害する要因、思考停止の原因であるとするならば、知的卓越のためには煩悩を取り去らなければならない。煩悩の原因は人間の脳の癖にあると説明される。本書で指摘されている人間の脳機能と、対応する煩悩は以下の通り(ゆるい表現だ)。

  1. 全体視機能(イッショクタに見ちゃう)
  2. 還元視機能(細部ばかり気にする)
  3. 抽象機能(概念に溺れて具体を見ない)
  4. 定量機能(数えたり計ったりして、もっと欲しがる)
  5. 因果特定機能(ご褒美を期待しちゃう)
  6. 二項対立判断機能(つい比べちゃう)
  7. 実存認知機能(大袈裟に考えたり簡単にあきらめたりする)
  8. 情緒的価値判断機能(感情にとらわれる)

いずれも必要な機能であるにも関わらず、陥りがちな煩悩と表裏一体である事がわかる。悟りとはこれらの機能がほとんど働いていない状態だ。しかし悟りの状態を体験することで、現実的にこれらの脳機能をより意識的に使うことが出来ると言う。煩悩にとらわれる事も少なくなるのだろう。

悟りを経験することで煩悩を廃する。クオリアの考え方から、悟りへの往相「色即是空」とは志向性の排除で、現実への還相「空即是色」とは知的怠惰や思考停止から脱する事とも言えるだろう。知的成長、自己研鑽をする上でも禅の考え方は有効であることがわかった。

ま、そういう簡単なモノでも無いんだろうな。