負け組アーキテクトの憂鬱

メモしておきたいことや読書の記録を淡々と書く。

2009年10月

[読書]思考する機械コンピュータ5

思考する機械コンピュータ (サイエンス・マスターズ)思考する機械コンピュータ (サイエンス・マスターズ)
著者:ダニエル ヒリス
販売元:草思社
発売日:2000-10
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

コンピュータの動作原理から人工知能まで。幅広い内容だが、徹底して論理の視点を貫いている。

コンピュータの本質は半導体などの技術論ではなく、いかに論理を組み立て実行するかということだ。ブール演算回路と有限状態機械の考え方さえ実現できればそれは半導体ではなくても、水でも、糸と棒でも構わない(実践してしまっている所が凄い)。そういった、コンピュータの基礎的な考え方を前半で述べ、後半はより人間的な「思考」に近づく概念である、チューリングのユニバーサルマシンや、ヒューリスティック、並列コンピューティング、学習といった考え方を説明する。

人間の思考は脳で行われている。人間の思考について、物理法則に支配される物質である脳からいかにして意識や心が生まれるのか根源的に問う心脳問題や、人間の脳をコンピュータ(ユニバーサルマシンとしてのコンピュータ)でエミュレーションすることによって、人間の思考の再現可能性を問うシンキングマシンの実現といった視点がある。

著者は、シンキングマシンは実現可能だがその原理は人間には理解できない、という見通しを立てた。その根拠は、彼自身が検証した進化論的シミュレーションで生成したソートプログラム(任意の数字列を順番通りに並べ替えるプログラム)と、従来型アルゴリズムのソートプログラムの比較にある。進化論型アプローチは、初期状態として基本的なソートアルゴリズムを与え、自らのアルゴリズムを変遷しながら効率の悪いアルゴリズムを淘汰し、よりよいアルゴリズムが残るように淘汰を続けて十分に質の高いアルゴリズムを得ようとする試みだ(人間の脳と同じアルゴリズムを生成するわけではないが、ある最適なアルゴリズムに収束するのではなく、発散と淘汰を繰り返すという、脳が歩んできた進化の道筋と「同じプロセス」であることが重要だ)。

驚くべき事に、この進化論的シミュレーションで生成されたソートプログラムは、他のどんなアルゴリズムを使った場合よりも高速な処理が可能であったという。さらに驚くべきことに、(いわば天才である)著者にも理解不可能な命令手順であったことだ。

この事実から、思考は計算可能であるものの、彼は進化の産物である脳の動作原理は根本的に人間には理解不能であるという仮説を立てた。シンキングマシンは実現可能だが、心脳問題は解けないと悟ってしまったのかもしれない。

計算可能性と思考の間には大きな断絶がある。脳を計算し尽くす道筋が立っても、そこに意識や心が生まれる第一原理は何も見いだせないのだ。

現在の物理法則においても、通常認識し得る物理法則と量子論が明らかにする物理法則の間に、まだ大きな分断が有るように感じる。本書では量子コンピュータの可能性についても触れられたが、論理と思考の間の分断は、この物理法則の分断と無関係ではないはずだという期待が生まれる。

いずれ量子コンピュータが実用化され、また量子論と相対論を結びつける統一場のような物理法則が発見出来たときには、心脳問題も解き明かされるのだろうか。

[読書]ビジネスマンの父より息子への30通の手紙5

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫
著者:G.キングスレイ ウォード
販売元:新潮社
発売日:1994-04-01
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

自分の跡継ぎである息子に当てた手紙の数々。入社してから父親が退職するまでの間の息子の成長の記録でもあり、父親がすべてのノウハウを託そうとしたビジネス指南書でもある。父親は二度も心臓の手術を行ったとのことなので、遺書としての一面もあったのだろう。

有益なビジネスノウハウと親子愛が同時に流れ込んでくるこの感覚は、なんとも形容しがたいものがある。苦楽を共にするとはまさにこういう事なのだろう。父親の偉大さとはどういう事か、その片鱗を垣間見た気がする。

果たしてこんな父親になれるだろうか。自分の仕事への卓越した知識・経験を身につける。それを伝える。褒めるべき所は褒め、叱るべき所を叱る。家族を思いやる気持ちと仕事への誇り。何事へも徹底した真摯さを持って向かうことなのだろうと感じる。

読んでいると自然と自分の父親の顔が目に浮かぶ。家族を支えるために仕事に生きた父親だ。自分も息子にとってそんな父親になれるだろうか。いや、ならなければいけないんだろうな。

[読書]あなたにもわかる相対性理論4

あなたにもわかる相対性理論 (PHPサイエンス・ワールド新書)あなたにもわかる相対性理論 (PHPサイエンス・ワールド新書)
著者:茂木 健一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2009-09-19
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

相対性理論の科学的、数学的な解説のみではなく、アインシュタインがだけが何故相対性理論に到達し得たのか、その理由を10個の「アインシュタイン力」として考察する。アインシュタインが生きた当時の社会的背景や、科学の位置付けなどを踏まえ、相対性理論の何がどう凄いのかを解説している。

光の速さが有限でかつ一定であることから、時間や長さの新しい概念を導き出した特殊相対性理論と、それを慣性系だけではなく加速度のある系の中での物理法則を論じた一般相対性理論について、世の中ではあたかも難解な物事の代表格のように扱われる事も多いが、本書では「あなたにもわかる」の名の通り、非常に分かり易い解説が試みられている。小難しい前提知識無しに読み進めることができる。

「詩人が短い言葉で世界を表現するように、数式も世界の法則をごく短く表現できる。」これがアインシュタインが志向し続けてきたことだが、相対論と量子論を同一の数式体型上で扱う、統一場の理論は完成させることができなかった。現在でも量子力学を学ぶ上では、まず人間の能力ではおよそ認識出来ないことを前提に理論を受け入れなければならない。彼がもし統一場の理論を完成させていれば、人間の見る世界の見え方は随分と変わっていただろうと予測できる反面、世界の見え方を変えるきっかけは、相当の難産の末に生まれるものなのだと驚愕させられる。

[読書]英会話ヒトリゴト学習法5

英会話ヒトリゴト学習法英会話ヒトリゴト学習法
著者:酒井 穣
販売元:PHP研究所
発売日:2008-10-17
おすすめ度:4.5
クチコミを見る

具体的な英会話学習ノウハウ(題名のとおりヒトリゴト学習法)はもちろん、英会話を学ぶ動機付けへの言及に心を動かされる。

今まで外国語は(特に世界の普遍語である英語は)、情報の入力量を絶対的に多くするための手段以上のものではないと考えていた。まさに必要に迫られて習得するものだと考えていたのだが、本書を読んで考えは一変した。

思考は言語に非常に深く結びついており、実際それぞれの言語を使っているときに活性化されている脳の部位は違うのだそうだ。日本語を使っているときと英語を使っているときで、性格が違うと実感する人も多いらしい。つまり、言語を習得することは内なる別人格=アルターエゴの作り出す事だと言う。同じ問題について考えるとき、日本語の思考と英語の思考で違った解答が出る場合がある。そのためよりいっそう考えを深める事ができる。自らの意識の中で、日本語人格と英語人格が議論をしていると言って良い。

物事に対して、多角的に、多様な視点で全体を捉える事が大事であるとすれば、アルターエゴの存在は非常に強みを発揮する事が出来るだろう。情報の入力量を増やすだけではなく、入力した情報を育てる上でもとても重要な意味を持っていることがわかる。

言語を習得する度ににアルターエゴを立ち上げる事ができるのであれば、世界がこれだけ多くの多言語で分断されてしまっていることは不幸な事ではなく、むしろより多くのアルターエゴの存在を予感させる、喜ぶべき事なのかもしれない。

「バベルの塔を建てた奴、ちょっと来い」と嘆く前に、是非読んでおきたい一冊だ。

[読書]脳の饗宴3

脳の饗宴脳の饗宴
著者:茂木 健一郎
販売元:青土社
発売日:2009-08-24
クチコミを見る

著者の研究内容の紹介と、著者の対談集のまとめといった構成だ。

意識やクオリアの問題と今後の見通しに付いては他の著書にも詳しいが、対談という形式で、その考え方が評価されていく過程がスリリングだ。正直難解な内容ではあるが、科学者が難解な内容を熱っぽく語り合う、素人にはサッパリな議論の中にこそ真理が渦巻いていると言う例えを思い出した。

特に意識とクオリアの解法についての議論には熱が籠もっている。著者とはまた違った視点を持った二者との価値観のぶつかり合いだ。内容もさることながら、これほどの熱意をぶつけ合う仲間がいることを羨ましくも思う。

[読書]行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論5

行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論
著者:舞田 竜宣
販売元:日本経済新聞出版社
発売日:2008-12-17
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

架空の会社の架空の物語のもと、よくありがちな問題それぞれの章に対応させて、解決してくプロセスと行動分析学の視点での解説を加える構成となっている。ここで登場する数々の物語(数々の問題点)は、架空の話とはいえコンサルタントであった著者の経験に基づく実際の話を基に構成されているらしい。

そのため、かなり具体的な問題ばかり取り上げられており、実際に自分の会社での問題によく似た章もあって、読んでいるだけで辛くなる程だった。

基本的な考え方は、人が何かの行動を起こしたときにその動機や原因ではなく、行動の結果に着目する。行動の結果、良いできごとが起きれば行動は強化される(回数や強度が増える)。この行動を強化させたできごとが「好子」で、反対に「弱化」させるできごとが「嫌子」だ。好子や嫌子は行動の直後のものでなければならない。これはそのまま脳内におけるドーパミン放出の教科学習の仕組みに一致する。行動の直後にドーパミンが放出されれば、その行動は強化されるという、脳科学での事実だ。この仕組みを使えば、任意の行動を強化したり弱化したり、コントロールすることが可能となる。

様々な問題を如何にしてコントロール可能な行動まで因数分解し、それを好子と嫌子を巧みに出現させることでコントロールし、問題を解決するか。行動分析学はそういった学問であると理解した。

人の人格や性格を変えることはできなくても、人の行動は変えることができる。あらゆる問題において、人の行動が関わる問題であれば必ず解決することができる。そんな気にさせてくれる一冊だった。

[読書]人を動かす質問力4

人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)
著者:谷原 誠
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2009-07-10
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

弁護士である著者の質問ノウハウ集

さすが、質問のプロである弁護士がまとめただけあって、実践的な内容だ。著者自身の失敗談からも、如何に質問力が重要であるかが説明される。

相手をその気にさせ、人を育てる。議論を制し、また自分自身をも変える。ビジネス手法や人付き合いまで、一般的な自己啓発書がカバーしているであろう内容の「すべてを」、質問力の切り口で説明し解決しているのが斬新だ。

中でも、ネガティブになりがちな質問をポジティブな言い回しに変える手法や、自らの行いをフィードバックするための7つの質問などは明日からでも実践出来そうな内容だ。質問の仕方一つで相手の回答もある程度コントロールできることもよくわかる。

一方で、質問をされる事が怖くなる一冊でもある。

質問相手が頭の良い人間であるほど、質問の意図を勘ぐってしまい、自分の発想や回答は質問者の意図通りに誘導されたものでしかないのではないかと、疑ってしまうほどだ。

日常の会話が腹の探り合いになってしまってはたまったものではない。質問者側のノウハウも一通り頭に入れた上で、たとえ誘導された回答でも自分が納得の上幸せになるのであれば、いっそそれも受け入れてしまおう。それは相手にとっても同じ事。質問の技術も、悪意を持って使うのではなく、人を幸せにしてナンボという事を肝に銘じておきたい。

[読書]インターネットが死ぬ日3

インターネットが死ぬ日 (ハヤカワ新書juice)インターネットが死ぬ日 (ハヤカワ新書juice)
著者:ジョナサン・ジットレイン
販売元:早川書房
発売日:2009-06-25
おすすめ度:4.0
クチコミを見る

パソコン通信ではなくインターネットが、アプライアンス機器ではなくパソコンが普及した理由は「生み出す力」にあるとする。肥沃なインフラと、隣人への信頼、それに加えて問題先送りの原則が生み出す力の源泉であり、同じ理由がインターネットに死を招くとする。不特定多数への信頼が成り立たない規模まで大きくなってしまった宿命とも言えるだろう。

なるほど、清濁混交の中だからこそ創造が生まれると思えば分かりやすいし、少ない経験に照らし合わせても十分に納得のできる話だ。誰かがルールを牛耳るパソコン通信やアプライアンスの世界は、確かにセキュリティに守られた消毒された世界となり得るが、それだけでは破壊的なイノベーションは生まれそうにない。

悪意ある人間はどこにでもいるものだ。悪意が悪戯目的であるうちはかわいいものだが、そこにカネになる臭いが発生してしまうと、とたんに信頼で成り立っていた秩序が成り立たなくなってしまう。

本書では、生み出す力を活かしつつインターネットの死を防ぐには、Wikipedia等のコンテンツ層での成功事例を技術層にも応用することを提言している。これからは教育レベルが未成熟な地域でもパソコンやインターネットの利用は広がっていくだろう。相対的な悪意ある利用者の数も増え続けるのだ。コミュニティの成熟によって悪意の抑制を期待しようというわけだ。

人間社会から悪意が無くなるなんて日は来ないだろう。悪意ある人々も飲み込んでも尚成り立つ社会を実現しうる技術が必要だ。決定的な具体策はまだ見えない。コミュニティの力の利用ももちろんだが、テクノロジーでの解決方法も探らなければいけない。生み出す力を守る手段も、パソコンとインターネットが生み出さなければならない。