脳と日本人脳と日本人
著者:松岡 正剛
文藝春秋(2007-12)
おすすめ度:5.0
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編集工学の第一人者である松岡さんと、脳科学の第一人者である茂木さんの対談。ただし「編集者と脳科学者の対談」といった専門的知性のぶつかり合いかというとそういった趣ではない。両者とも卓越した総合知性をお持ちなのだと容易に想像出来る対談だ。しかも、人間の知性に対する考え方や生命原理から近代の国家のあり方まで、何度も両者の異なる主張がぶつかり合う、とても刺激的な内容だった。

見解の違いは他でもない、両者の視点の違いによるものだ。つまり、編集というメタな方法、俯瞰した視点で世界を捕らえる松岡さんと、心脳問題を世界の問題の本質と定めて、私という主体からの志向性を世界観の中心に置く茂木さんの立場の違いだ。

そのような違いは、普遍性の議論の中で言及された現代日本への問題提起に最も良く現れていた。

日本社会の住みにくさや問題点の本質を解き明かそうとする茂木さんと、あらゆる事象も含めて日本文化がとってきた方法それ自体を受け入れる松岡さん。明確に違う見解を持つ二人の対話には、まるで場を共有しているかのように引き込まれる魅力があった。

しかし一方で、二人の主張に一貫して共通している点がある。立場は違えど、二人はその価値観を共有しているのだ。

松岡「これからの二十一世紀は、二つ以上の物事や人間や世界観を様々な角度や意味あいから見て、そこから新しい関係を発見すること、つまり、僕がいう『編集』作業が必要だと思っています。」(p.223)

これは茂木さんの言う「異なる物事の間に補助線を引く」ことと同じ概念だ。編集者と脳科学者。至った経緯や背景は違えど、それぞれ違う分野で卓越した二人が、同じ価値観を持って語っていることはとても興味深い。