伝える力 (PHPビジネス新書)伝える力 (PHPビジネス新書)
著者:池上 彰
PHP研究所(2007-04-19)
おすすめ度:4.0
販売元:Amazon.co.jp
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世にあふれるいわゆるコミュニケーション本と、そう逸脱した内容ではなかった。一朝一夕でコミュニケーション能力が劇的に上がるような、飛び道具的な裏技を期待しているのであれば本書は向かない。

では本書では何が特徴的なのかと言うと、元記者であり元アナウンサーである著者の経歴とその経験量に裏打ちされる説得力だ。

伝える力、コミュニケーション力というテーマについて、記者時代や週刊こどもニュース制作のエピソードはより強い説得力を与えている。多くの人にとって、週刊こどもニュースはやはり「池上お父さん」の時代の印象が強いだろうし、著者は「NHKニュースの人」でお馴染みだろう。

なかでも興味深かったのは、ビジネス文書を書く章、文書にロジックを与える手法の解説である。代表的な論理である演繹法と帰納法を挙げ、どちらがよりよいかを考える場面だ。

報告書や提案書をまとめる場合、どちらがよいかといえば、帰納法に決まっています。現地や現場を調べた結果をまとめるからです。ジャーナリズムでいえば、下調べを十分に行った上で、さらに取材を繰り返して掘り下げ、結論を導き出す。こうした積み重ねがスクープや充実した記事に結びつきます。だから、帰納法が理想です。(p.112)

著者の経歴ならでは、と唸ってしまった。例えば自然科学の論文の考え方などではまた少し違った見解にもなるだろう。帰納法より演繹法が有利な局面もあるはずだ。しかし一方で「伝える職業のプロ」がこのように断じている事は、物の書き方について新しい見解を与えさせられた。

本書自体が「伝える力」を体現し、ターゲットとなる若手ビジネスマンにとって、わかりやすく興味を引く内容を目指していながら、文章の端々には自信と確信が滲み出ている。それは著者の圧倒的な経験量と勉強量であることがとても良く理解できた。