これからの思考の教科書 〜論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方〜これからの思考の教科書 〜論理、直感、統合ー現場に必要な3つの考え方〜
著者:酒井 穣
ビジネス社(2010-09-28)
おすすめ度:4.5
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

トレードオフの関係を超える。AとBの二元論の関係から、AとBの両方を成立させる。矛盾を引き受ける。変化と安定、個別と普遍、自律と管理、慎重と大胆、収束と発散…、一見相反する要素に折り合いを付ける。異なる概念間に補助線を引き、認識変容を引き起こす。最近、自分が感じる多くの問題意識の中心には、こういった正体不明のモヤモヤとした感覚があった。

私と私の上司はこの、AとBの二元論のトレードオフを「ORの抑圧」、AとBを両立させてしまう認識変容のキッカケを「ANDの才能」と呼んでいた。ビジョナリー・カンパニーのコラムからの引用だ。本書でも紹介されている、スコット・フィッツジェラルドの言う「一流の知性」が考察されていたのだ。

ただ、抑圧や才能と言った言葉はどこかしっくりと来ない。その方法論が紹介されていたわけでもないし、そもそもこれらの言葉からは外的要因や先天的な要因が想像されてしまい、「努力次第で獲得できる能力である」という直感にも反する。決してモヤモヤが晴れるわけではなく、捕らえどころのなさは変わらなかった。

このモヤモヤに「インテグレーティブ・シンキング」という名前が与えられたのは衝撃だった。自らの浅学無知を思い知る。第三部で解説されているとおり、名付けはロジカル・シンキングのエッセンスである。もちろんインテグレーティブ・シンキングはロジカル・シンキングの延長線上にあるものではない(それは本書を読み進めることで腹に落ちるはずだ)。しかし、このモヤモヤとした感覚を体系的に捕らえる準備ができたことの意味は大きい。早速、上司との共通言語にすることも出来た。

思考法を大きく、ロジカル・シンキング(垂直思考)、ラテラル・シンキング(水平思考)、インテグレーティブ・シンキング(統合思考)の3つに大別し、それぞれの平易で大胆に、分かりやすくまとまっている。特に、ロジカル・シンキングやラテラル・シンキングを学びたいのであれば、文字通り最高の教科書になるはずだ。これらの思考法を初めて学ぶにはもちろん、「できたつもり」になっている人にも新たな気付きが数多くあるはずだ。一冊の本の中でまとめただけ合って、徹底的に贅肉をそぎ落としている。極めて実践的な内容だ。

一方、本書の真骨頂である、インテグレーティブ・シンキングについては少し様相が異なる。インテグレーティブ・シンキングは未だ明確な方法論が明らかになっていない思考法である。この難敵に著者が挑んだ過程とも言える内容に見えるのだ。

脳の進化の過程の解説や最も原始的な「考えること」の定義に始まり、会社組織のような社会的な知性との関連の考察、トレードオフ思考や「ORの抑圧」の背景にある思考法をサバイバルシンキングと呼び、これらをインテグレーティブ・シンキングの背景として、その正体に迫ろうとする。そのアプローチがこれまた平易な言葉で分かりやすく表現されている。とんでもなく幅広い知識量と、これまたとんでもなく深い洞察に裏打ちされているであろうことは明白だ。本書自体が、ロジカル・ラテラル・インテグレーティブな思考法を実践した成果に他ならない。

重要な気付きを与えてくれる一冊だった。

読者である私たちは、本書を「教科書」としてインプットするだけではまだ不十分だろう。本書が正体不明でモヤモヤした思考法をここまで明らかにし、筋道を示してくれた成果を、新たな「学び」のサイクルの起点として発展させていくことが求められているのではないだろうか。